世界三大ウール産地のひとつ、尾州で織り上げたホームスパンジャケット。
いまや全国的にその名が知られる札幌の名店『ARCH』とコラボするのだから、ARCHのHOMEでもある北海道からインスパイアしたアイテムを作ってみたい。例えば『幸せの黄色いハンカチ』の高倉健さんの格好。衿にボアが付いたレザーのフライトジャケットのG1にチノパンスタイルとか。『北の国から』で田中邦衛の五郎さんがいつも被っていたジープキャップにバブァー風のネイビーのドカジャンスタイルもいいなぁ。どちらもあまりにも安易すぎて、ハイ却下。
メンズウェアの基本は、ワーク、ミリタリー、スポーツ、アウトドア、フォークロア。この5つのカテゴリーにある。そこで今回のコラボで僕が選んだのがフォークロアだ。
例えばフォークロアにはどんなアイテムがあるのかというと、『アナトミカ』の前身で、80年代にジャン・セバスチャンとピエール・フルニエがパリで開店したフレンチアイビーの名店『エミスフェール』が紹介して知られるようになったオルテガのチマヨベストや、映画『セルピコ』でアル・パチーノが着ていたメキシカンパーカー、ラルフローレンが服作りでインスパイアされたナバホ族のブランケット、ヘミングウェイや伊丹十三が着ていたチロリアンジャケット、ドイツのブランド『フランクリーダー』がデザインの参考にしているハンガリーやポーランド、チェコなど欧州のヴィンテージウェア、そうそう、MOJITOの山下さんがいつも身に着けている『NORTHWORKS』のアンティークビーズのネックレスなんかもそうだ。思いついて上げただけでも、ARCHでもお馴染みのブラントがいくつもある。
フォークロアを日本語に訳すと、僕は”民藝”だと思う。民藝とは、民衆の暮らしの中から生まれた工藝品のこと。陶磁器や鉄器、木工、染物、織物など、民藝の範疇は多岐に渡る。いわゆるアーツ&クラフトである。お洒落な業界人の間でモダンなインテリアとしてその価値を見出されて昨今ブームになった、北海道の八雲が発祥地の木彫りの熊の置物などもそうだ。
民藝と名付けたのは、1913年に東京帝国大学哲学科を卒業後、目黒区にある日本民藝館の初代館長を務めて「民藝の父」と呼ばれた、宗教哲学者で蒐集家だった柳宗悦だ。1940年代、柳宗悦、英国人の陶芸家バーナード・リーチ、詩人で造形作家の川井寛二郎が日本各地や英国を旅して民藝品を蒐集したアーツ&クラフツ運動によって、民藝は広く知れ渡るようになる。柳たちが集った民藝運動のメンバーには版画家の棟方志功もいた。
ザックリ解説しましたが、僕が注目したのは彼らのスタイルがとてもお洒落だったことである。粗野なツイードのスーツや、胡桃釦のホームスパンのジャケット、草木染めのネクタイや鼈甲の眼鏡を掛けて、芸術家らしいなんともナードな雰囲気で服を着こなしている。なかでもホームスパンは民藝作家を象徴するアイテムで、柳宗悦はホームスパンの愛好家でもあり、「英国では植物染料の染めでないとホームスパンとは言わない。木の釦を付け、洒落者はその洋服を手縫いで作る」と、日本のホームスパン作家に論じていたという。
そこで今回のMOJITOとARCH米村屋とのコラボで作りたいと思いついたアイテムが、北の大地に似合う粗野なホームスパンのジャケットである。それも普通のホームスパンじゃあ面白くない。MOJOTOの山下さんといえば、素材には採算度外視でこだわる職人気質で芸術家肌のデザイナーである。僕から山下さんに提案したのが、尾州ウールで織り上げたホームスパンだ。
世界三大ウール産地というのをご存じだろうか。イタリアのビエラ、英国のハダースフィールド、そしてもうひとつが日本の尾州である。国内の毛織物の約8割は尾州で生産されている。尾州とは現在の愛知県西部から岐阜県南西部にまたがる地域の総称。上質なウールの産地には大量の水が必要で、ビエラにはアルプス山脈から流れ出る川、ハダースフィールドにはコルネ川とホルム川があるように、尾州にも木曽川が流れている。木曽川の水は染めや仕上げに適した軟水で、日本で有数のウール産地として発展したのだ。
そこで今回、最高品質のホームスパンを使いたくて製作を依頼したのが、尾州の津島市に工場を構える『山栄毛織』だ。津島市は日本の毛織物業の発祥地でもあり、山栄毛織は津島で1915年に創業した老舗中の老舗である。
山栄毛織が織る尾州ウールは、レピアという高速織機をあえてションヘルという古い低速織機のスピードでゆっくりと動かして織り上げていく。手間がかかるぶん、こうすることによって繊維に空気が含まれてふっくらとした風合いのある生地に仕上がるのだ。ちなみに山栄毛織は、その高い技術力を買われて、某有名ブランド(前クリエイティブディレクターが急逝して某ミュージシャンが就任して話題になったラグジュアリーブランド)から生地の製作依頼がきて、世界的にもその名が知られている。
素材に徹底的にこだわるMOJITOの山下さんと山栄毛織が何度も何度もやりとりをして完成した、尾州ウールで織り上げたホームスパンで作ったジャケット。その出来は言わずもがなである。
僕からもう1つ提案したのは、釦をレザーでくるんだ胡桃釦にしてほしいこと。山下さんがクリーニング時に釦を取り外せるようクラシックなGリング仕様したので、デザイン的にいいアクセントになっている。第1釦は浅すぎず深すぎない絶妙な位置。硬さと厚みがある粗野なホームスパン生地にも関わらず、通常のジャケットに用いる芯地など一切使わないラフな製法のアンコン仕立てで、ラペルを上まで閉じればカバーオール風に着られる。モンブランの万年筆がぴったりと収まるペン挿しがある胸ポケットは、モノ書きを生業とするいであつしのアイコンでもある。袖口がシャツカフスになっているのも、MOJITOのジャケットならではのデザインだ。
ちなみに、シャツカフス仕立てのアンコンジャケットといえば『ペンドルトン』のトップスタージャケットが有名だが、数年前にピッティのオヤジたちから火がついてブームになった『ボリオリ』などイタリアのドレスブランドのアンコンジャケットは、ペンドルトンのトップスタージャケットを参考にしている。
今回のMOJITOとARCH米村屋といであつしのトリプルコラボで完成したジャケットは、ペンドルトンのトップスタージャケットにも負けていない、その上をいく仕上がりである。こうして書いていてもムクムクと野心が沸いてくる。実はジャケットが完成した時点では、まだネーミングが決まっていなかった。山下さんが冗談半分で「AMBITIOUSJACKETはどうですかね?」と言ったのだ。いいんじゃない。それ!(以下、最終回に続く)
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いであつし × MOJITO × ARCH 米村屋
AMBITIOUS JACKET LAUNCH EVENT
ローンチイベントは12月16日(土)、17日(日)の2日間ARCH米村屋にて開催いたします。当日は、いであつし氏、山下氏も在店し、皆様をお迎えいたします。両氏とも皆様にお会いできることを楽しみにしております。ぜひ、この機会にご来店くださいませ。
開催日時:2023.12.16(土)〜12.17(日)
開催店舗:ARCH 米村屋
札幌市中央区南4条東1丁目9-3米村屋ビル1F [Google MAP]
TEL 011-281-5560
MAIL yonemuraya@archstyle.tv
営業時間 12:00-20:00(水曜定休)
BLOG https://archstyle.tv/yonemuraya
INSTAGRAM @arch_yonemuraya
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