【FRANK LEDER interview in Germany】 “野上英文氏”

Share
this article

皆さんこんにちは、ARCH米村屋の阿部です。

遡ること今年の7月、一人の男性と出会いました。”野上英文氏”。
米村屋には初めての来店との事。店内を見て頂き、その方が手に取った一枚の洋服、それはドイツのブランド”FRANK LEDER”(フランクリーダー)でした。

本日のBLOGでは、野上氏が感銘を受けドイツまで会いに伺った際のFRANK LEDER本人へのインタビューをご紹介させて頂きます。

【プロフィール】

野上英文 Hidefumi Nogami
朝日新聞ジャカルタ支局長、NewsPicks Brand Design Creative Fellowなどを経て、現在はBloombergでDigital Managing Editor。ラジオやPodcastでパーソナリティとしても活躍する。神戸出身のBoon世代で、20代からオールデンを愛用。オーベルジュのM47購入をきっかけにArch各店に通い、Arch米村屋でフランクリーダーのコレクションと出合う。2025年9月、独ベルリンのアトリエを訪ねてフランク氏との交流を深めた。ライカM11モノクロームを愛用。

今回の訪問の経緯ーーーー

札幌のArch米村屋を今年7月初旬に訪ね、フランクリーダーのセットアップを大手さんに勧めてもらったことが存在を知ったきっかけです。

まもなく45歳のBoon世代。仕事も一回りした最近、ファッションの「第二の青春」スイッチが入ったようです。ただ、試着したフランクリーダーは、当時の自分のスタイルとは少し違ったため、実は当初、半信半疑で手に入れました。

ただ、セットアップを着用して外に出たところ、行く先々で自ら話題にしなくても「すごくいい」と口々に言われます。フランクリーダーが醸し出す、柔らかでいてスタイリッシュな雰囲気。とてもポジティブな反応で周囲に受け入れられました。

こうしてガーメントを変えることで見た目が変わり、見た目が変わることで、立ち振る舞いも変わる。そして立ち振る舞いが変わると、次第に心持ちや内面も変わることに気づきました。

米村屋でいくつか試着しながら、購入を見送っていたフランクリーダーのコレクション。シャツジャケットや復刻の革ジャンを追加で通販にて求めました。それらを着て出ると、どうでしょう。私はますます機嫌が良い。その明るい雰囲気は、同僚や初めて出会う人たちにも伝わります。コミュニケーションもより円滑にしてくれました。

大げさではなく、人生をより好転させてくれたフランクリーダー。いったいどんな人物なのか。大手さんによると、ドイツ発で相当なこだわりを持って服作りをしている、と聞きました。

私はファッション業界に身を置くものではなく、愛用家の1人にすぎません。ただフランク氏がどういった信念で服作りをしているのか、ジャーナリストとしての心がくすぐられました。できればフランク氏に会ってこの感謝を伝え、彼の思いも聞いてみたい、と。

ベルリン行きの航空券を取った段階では、何の確約もありませんでした。ただ大手さん、長谷川さんのご厚意と橋渡しで、アトリエ訪問のアポイントメントが叶いました。9月中旬、少し肌寒いベルリン市内。アトリエでインターフォンを緊張しながら押すと、フランク氏が扉を開けて笑顔で迎え入れてくれました。

本人が南部鉄器の急須で入れてくれたお茶をご馳走になりながら、一時間近くインタビューした内容を執筆しましたので、ご紹介します。フランク氏の口癖は「エンジョイ ガーメント」。数々撮影した写真と共にぜひエンジョイ、お楽しみください。

フランクリーダー インタビュー(野上英文)

ドイツの文化と職人技を纏う

服は単なる保護や保温のためだけではない。その日の気持ちや他者との対話、自分自身をより良く感じさせるための表現でもある


フランクリーダーとは

ドイツ・ニュルンベルク出身のデザイナー、フランク・リーダーが手がけるファッションブランド。2001年の創業以来、25年近くにわたってドイツの文化・歴史に根ざした物語性のあるコレクションを発表し続けている。

世界的に有名なロンドンのセント・マーチンズ美術大学でファッションデザインを学び、アレキサンダー・マクイーンやステラ・マッカートニーらを輩出した名門校で、ルイーズ・ウィルソンの下で学んだ経歴を持つ。

ブランドの哲学:物語を纏う

「全てのガーメントには物語がある」

フランクリーダーの最大の特徴は、単なるファッションを超えた「物語性」にある。フランク自身が語る:

「ドイツの文化や歴史を通じて、人々が普段知ることのない物語をコレクションで伝えたい。たとえば、ドイツの伝統的な素材や技術を現代によみがえらせることで、歴史を教育し、共有することができる」

例えば:

ドイツの船乗りコレクション: 海ではなく運河で石炭や木材を運ぶ内陸の船乗りたちの物語

職人の旅コレクション: 3年と1日をかけてドイツ中を旅する黒装束の大工職人の伝統

・かかしの実験: 12体のかかしを1年間野外に置き、風雨や動物による変化を観察した

素材への探究:歴史を紡ぐヴィンテージファブリック

フランクの服作りで特筆すべきは、ヴィンテージ素材への深いこだわりだ。

冷戦時代のベッドシーツ 1960-70年代、第三次世界大戦への恐怖から西ドイツが地下シェルター用に大量生産したベッドシーツ。戦争が起こらなかったため未使用のまま保管されていた高品質な生地を発見し、シャツやパンツに再生。

ヴィンテージボタンへの情熱 「ボタンは服を着る時、脱ぐ時に最初に触れるもの。だからこそ美しくなければならない」

ドイツ各地のフリーマーケットや古い仕立て屋から、1930年代のボヘミアングラス、ココナッツシェル、バッファローホーンなど、歴史あるボタンを収集。各コレクションに数百個単位で同じボタンが必要なため、ドイツ、チェコ、オーストリアに広がるネットワークが支える。

日本との深いつながり

なぜ日本人がフランクリーダーに惹かれるのか

フランク自身の分析: 「日本人とドイツ人は非常に似ている。どちらも品質を重視し、価値や物語、歴史を大切にする。職人技への深い敬意も共通している」

現在、アジア市場が重要な位置を占め、特に日本での人気は高い。Arch米村屋をはじめ、全国の厳選されたショップで取り扱われている。

服との出会いが人生を変える

インタビューアーの体験談。

以前はユニクロや無印良品といった服ばかり着ていた元新聞記者が、Arch米村屋でフランクリーダーの服と出会い、衣服・ファッションそのものに魅力を感じるように。服装が変わると、周りからの見られ方が変わり、自分自身も変わった。朝起きて外出するのが楽しみになった。

これこそフランクが目指す服の本質的な力: 服は効率性だけでなく、日々の儀式であり、自己表現であり、他者とのコミュニケーションツールであると感じている。

持続可能性への取り組み

大量生産ブランドとは一線を画すアプローチ:

完全な品質管理: 生地の調達から縫製まで全工程を自身で管理

・限定生産: ニッチな存在だからこそ可能な、妥協のないものづくり

・ヴィンテージ素材の再生: 廃棄される歴史ある素材に新たな生命を与える

「私の名前がすべての服に入っている。つまり、すべての服に責任を持っている」

これからのフランクリーダー

現在約50コレクション目を迎える

「顧客の皆様のサポートのおかげで、毎シーズン新しいコレクションを作り続けることができている。これは本当に感謝すべきことだ。投資家もいない小さな会社が、シーズンごとに人々に楽しんでもらえるコレクションを作り続けられることは驚くべきことだ」

フランクの願いはシンプルだ:これからも変わらず、物語のある服を作り続けること。そして、服を通じてドイツの文化や歴史を世界に伝え続けること。

フランクリーダーを着るということ

それは単に服を身につけることではない。 長い歴史の一部となり、職人の技術と情熱を纏い、物語の一部になることなのだ。

「服は民主的で社会的なもの。アートと違って、より多くの人が楽しめる。アイデアを最終的な顧客に届ける最良の方法だと信じている」

<QA>フランクリーダー、90分インタビュー

Q: なぜファッションデザイナーになったのですか?

「父が建築家だったので、幼い頃から何かを創造することに興味を持っていました。でも建築では常にクライアントのために働き、自分のアイデアを伝えるのが難しい。服なら年に2回でも4回でも好きなだけコレクションを作れるし、最終的な顧客により簡単にアイデアを届けることができます。シャツやパンツ、ジャケットは投資ですが、家を建てるほど高額ではありませんからね。」

Q: ドイツの文化や歴史をテーマにする理由は?

「ロンドンで学んでいた時、車でドイツ各地を回り、人々と話をしているうちに、とても興味深い物語がたくさんあることに気づきました。これらの物語をコレクションを通じて人々に伝えることができる。ドイツの伝統的な物語や、普通なら知ることのないドイツの素材を紹介できるんです。誰もこのような取り組みをしていなかったので、これが私のトレードマークになりました。」

Q: ファストファッションとの違いは何ですか?

「完全に違います。ニッチな製品だからこそ、すべてをコントロールできるんです。生地をどこから買うか、誰が生地を作っているか、誰が縫製しているか。『このアイデアはコストがかかりすぎる』とか『この方法は間違っている、もっと利益を上げるために努力を最小限にしよう』という人は誰もいません。私にはスポンサーがおらず、私がすべての決定を下すからです。私の名前、フランクリーダーとすべての服に入っている。つまり、すべての服に責任を持っているということです。私は隠れていません。とてもオーセンティックなんです。」

Q: ドイツでも珍しい存在ではないでしょうか。

「数年前、あるジャーナリストが『ポール・スミスがイギリスでやっていることを、あなたはドイツでやっている』と言ってくれました。ポール・スミスが英国らしさ、英国の生地、英国製にこだわっているように、私はドイツに対して同じことをしているということでしょう。ある意味で、私は人々を教育したり、服を通じて物語を伝えているのです。」

Q: 特に思い入れのあるコレクションを教えてください。

「船乗りのコレクションは特別でした。海の船乗りではなく、ドイツやデンマーク、オランダの小さな運河で石炭や木材を運ぶ船乗りたちです。彼らは『本当の船乗りじゃない』と見下されがちですが、同じように厳しい仕事をしています。なぜそう思われるのか興味を持ち、実際に船に乗って数日間一緒に働きました。経験しなければ物語を語れませんから。夜は一緒に座って、彼らの人生について話を聞きました。

それから、かかしの実験も印象的でした。12体のかかしを1年間田舎に設置して、風、天候、太陽、雨、動物たちが服にどんな影響を与えるかを観察したんです。毎月訪れて変化を記録しました。ある時、ジャケットのポケットで動きを感じて開けてみると、小さなヘビが暖を取っていました。ドイツのヘビは毒がないので大丈夫でしたが、とても驚きました。」

Q: 素材に込められた歴史について詳しく教えてください。

「ココナッツボタンには面白い歴史があります。もちろんドイツではココナッツは取れません。これらは貿易船が外国から戻る際に、船のバランスを取るために積んでいたココナッツの殻から作られました。船は行きは商品でいっぱいですが、帰りは空っぽなので重しが必要だったんです。ハンブルクの港で、賢い人がこの殻を見て『何か作れるんじゃないか』と考えたのが始まりです。このように、すべてのボタンには歴史があるんです。」

Q: ヴィンテージ素材へのこだわりについて教えてください。

「25年近くファッションに携わっていると、多くの人に出会います。特にヴィンテージボタンを見つけてくれる人たちとのネットワークができました。ボタンは服を着たり脱いだりする時に最初に触れるものです。だから美しくなくてはならない。コレクションを作るには同じボタンが何百個も必要なので、ドイツ全土、チェコスロバキア、オーストリアの人々が助けてくれています。」

Q: 冷戦時代のベッドシーツを使ったコレクションもありますね。

「1960年代、70年代、ドイツでは第三次世界大戦への恐怖から、地下シェルター用にベッドシーツが大量生産されました。でも戦争は起こらなかったので、すべて未使用のまま保管されていました。これは政府が発注したものなので品質が素晴らしく、年月が経っても汚れていませんでした。この素材を全部買い取って、シャツやパンツに使用しました。」

Q: なぜ日本人にフランクリーダーが愛されると思いますか?

「日本人とドイツ人はとても似ていると思います。どちらも品質を重視し、価値があり、背景に物語や歴史があるもの、そして職人技を大切にします。世界にはファッションがあふれていて、まるでジャングルのように道を見つけるのが難しい。だからこそ、大企業が考え出したものではなく、本物の人間から生まれた、オーセンティックな製品を人々は評価してくれるのだと思います。」

Q: 毎日同じ服を着る方が効率性が良いという声がビジネスパーソンの間で一定あります。

「服はもちろん体を守り、暖かく保つためのものですが、同時にその日の気持ちや、他の人に表現したいこと、見せたいことの表現でもあります。自分自身を良い気分にさせ、他の人とのコミュニケーションを助けてくれるものでもあるのです。」

「5分間、何も考えないのと、その5分を有効活用するのとでは大違いです。コミュニケーションを助け、その日をより良い気分にしてくれるのですから。服を真剣に考えずに、多くの人の中の一人になってしまうのは、正しい方法ではありません。もちろんバランスが重要で、服について考えすぎて中毒になってしまうのは健康的ではありませんが、日常生活の一部として考えるべきです。」

Q: 今後の展望を聞かせてください。

「現在のように続けていけることを幸せに思います。私の服を買ってくださる皆様のサポートのおかげで、このような仕事を続けることができるのですから。シーズンごとに新しいコレクションを作れることは、本当にありがたいことです。投資家もいない小さな会社が、約50コレクション目を迎えられるなんて驚くべきことです。これ以上は望みません。」

ARCH米村屋では今回のイベントに合わせて、2025A/Wの新作、アーカイブコレクション等、多数スペシャルピースをご用意しております。

次回のBLOGでは”DEUTSCHELEDER”(ジャーマンレザー)についてのご紹介をさせて頂きたいと思います。乞うご期待下さいませ。

ARCH米村屋 阿部