“NEW” M-65 PARKA

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“極寒地用夜戦パーカー”

US Militaryの長きに渡る歴史において、今日に至るまで様々な装備が生まれてきた中でも”名品”と謳われた1965年にアメリカ軍で採用されたフィールドパーカーを人々はそう呼ぶ。

読んで字の如く、気温の低い地域での長期戦を想定し、多くを綿80% ナイロン20%の混合率のシェルで身体を覆い、その中に保温性などの向上を目的にライナーを取りつけられる仕様を備えながら、様々な装備の上から被れてしまう大きなフードをも脱着可能とし、あらゆる気候に対応し得るM-65 PARKAという“武器”をアメリカ軍は完成させたのだ。

第二次世界大戦時、アメリカが化学繊維(ナイロン)を開発、量産を可能にしたことが戦争に勝利した1つの要因なのではないかと言う人までいるのだから、何も銃火器だけが武器ではないと言うことだ。

話は変わるが、洋服やスタイルなどの歴史を辿ると、その当時の時代背景や文化への反骨心“カウンターカルチャー”によって生まれたものが多い。

その中のひとつとして、3年程前の私がまだArchのスタッフになる前から個人的に好きだったのが“モッズ”という文化、スタイルである。

1950~60年代ごろに、イギリスの若者を中心に形成されたこの文化は、戦後の好景気によって金銭的な余裕が生まれたのに加え、他国の文化が情報として広く取り入れやすい時代背景により、英国の洋服文化を牽引してきた“テーラード”は残しながら、それと共にジーンズやポロシャツを見に纏い、クラブなどで夜通し遊ぶといった、とにかくオシャレな奴らを人々はモダンな人と評し“モダニスト”と呼んだ。

かの有名な「さらば青春の光」という映画に感化されたのと、洋服のスタイルにおけるコンチネンタルな要素が、私が憧れたArchのスタイルとどこか重なって見えたのが興味を持ったきっかけだった。

そんなモッズスタイルに欠かすことができないアイテムこそ、アメリカ軍のフィッシュテールパーカーだ。というのは言うまでもないだろう。(正確に言うとM-51なんだけど…笑)

まさにそのタイミングでインスタグラムを見ていると、「MSG&SONS M-65 PARKA発売!」という投稿が目に飛び込んできた。

じっとなんてしていられるはずも無く、その日の仕事終わりに真っ先にArch STELLAR PLACEに車を走らせ、購入しに行ったのが懐かしい思い出だ。

しかし、購入するにあたって1つ問題があった…。

それは”BLACK”があったということ。

私がM-65 PARKAを購入した当時、芸能人がこぞってヴィンテージのM-65 PARKAを着ていた煽りを受け、世間は”65ブーム”だった気がする。

こぞって各ブランドやショップがオリジナルでM-65 PARKAを作り販売されていたが、ヴィンテージの所謂本物から、着丈を伸ばしたり…。とか身幅を少し縮めたり…とか、”現代風オリジナルM-65 PARKA”が、ステラプレイスの様々なショップに所狭しに並んでいた。

あまり洋服には今ほど詳しく無かった当時でも、それらを見て「なんか違う」と感じていた。

しかし、Archの”BLACK M-65 PARKA”はパッと見た時の印象も然り、製作背景やストーリーを聞けば聞くほど惹かれた。

定番の”OLIVE”か、新鋭の”BLACK”か。

この選択に頭を抱えたのだ。

“BLACK”は、本来ヴィンテージに使われていた真鍮のゴールドジップパーツなどを、アルミのシルバーパーツに変更し、あくまでミリタリーウェアとしてのチープさを表現。

さらに、本来存在しないBLACKを”当時のアメリカだったらどう作っただろうか”という想像のもと、効率的かつ安価に量産できたであろう”後染め”を採用し、Archの解釈するBLACKのM-65を生み出したのだった。

OLIVEとBLACKの両者に共通しているのが、脇下のステッチなのだが、ヴィンテージが巻き縫いなのに対し、Archは割り縫いで仕上げたということ。

この仕様によって胴部分のパッカリングを無くし、ステッチを外側に出さずに内側に隠すことで、着用時にシルエットを綺麗に見せる効果を持ち、スーツの上から着用したとしても収まりが良く、その着方にどこか説得力のあるM-65 PARKAであると言える。

まさにこの仕様が、スーツなどのジャケットを好んだ”モッズ”への憧れを抱いた私には大刺さりだったのだ…。

それに加え、M-65 PARKAの前期型を採用。

このM-65 PARKAに前期、後期があったと言うのに驚いたが、見分け方を知っている人は中々いないのでは。と言う話だったので納得だった。

聞けば聞くほど、見れば見るほど、かなりマニアックでニッチかつ、Archのエッセンスを加えた唯一無二のM-65 PARKAだと言うことに愛着と、自分はこんなものを作っているお店で洋服を買っているのだと言う誇りの様な、感動に近い感情が湧いた。

そこから約3年の時を経て。

MSG&SONSは全く新しい“M-65 PARKA”をリリース。

生地からパターンメイキングに至るまで全てを新たに製作した今作は、「M-65 PARKAのデットストックって多分こんな感じなのだろうな」と思わせる完成度。

生地は既存のものではなく、ヴィンテージをより深く解析、観察し、1からオリジナルで製作した、ヴィンテージ同様80/20の混合生地を実現し、更に着丈などの長さや、アームホールの太さなどのパターンメイキングまでをも新たに再構築しながらも、Archの解釈、エッセンスはそのままに残した、新たなM-65 PARKAだ。

M-65 PARKAをリアルに装備として使用していた時代。

我々の様に装備などの衣類に憧れを抱き、スタイルとして落とし込むことに生きがいや楽しさを見出す様に、その時代の戦闘機や兵器などの武器にも一定数のマニアやファンがいるだろう。

より速く飛ぶために風の抵抗はどうしたらもっと逃がせるのか。より多くの人間を倒すためにはどうしたら良いのか。見た目やデザインではなく、機能や性能の向上を優先した結果の姿、形に人々が魅せられ、いつしかそれは“機能美”と呼ばれ、未来永劫、名品と謳われる物へと昇華されていくのだと私は思う。

デザインなどの所謂見た目には、100人いれば100通りの好き嫌いがあって、それを”個性”として洋服や髪型などの容姿に己を投影し表現するというごく自然なこと。

しかし、その洋服が生まれた歴史や経緯に”個性”などといった違いはなく、揺るがない1つの事実で成り立つ故、それらをリスペクトし、洋服という形で後世に残していくMSG&SONSの理念、思想に私は魅力や憧れを抱いてきたからこそ、きっと3年前に私が他のお店で感じた「なんか違う」という感情は間違って無かったのだと、スタッフになった今になって改めて思う。

私にとって屋内、外の寒暖差の激しい秋冬を、ライナーやフードの着脱によって1着だけで対応できてしまう汎用性の高さに加え、着用したまま車の運転もノンストレスであり、汚れた時は自宅で洗濯してしまえる扱いやすさは、今や必要不可欠な存在。

モッズへの憧れを、Archで…。

“BONCOURA / XX” , “ANATOMICA / 618” , “COALMINE GUARANTEED”などのジーンズに。

JOHN SMEDLEY , unfeignedのポロシャツ…。

ジャケットはあえてワーク、ミリタリーにしても面白そうだな…。

なんて妄想を膨らませながら、今日も私はMSG&SONSのM-65 PARKAを着て家を出た。

Arch STELLAR PLACE 佐藤