英国の用の美、”BARBOUR”

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1894年、BARBOURはイギリス北東部に位置するサウス・シールズで産声をあげた。

港町として知られるサウス・シールズにおいて、漁師や水夫などには雨風に耐えられる強固なワークウェアが必要だったのだ。

そこでBARBOURの創設者である、ジョン・バブアー氏は、油が水を弾く性質を利用し、コットンにオイルを含ませた”オイルドコットンクロス”を開発。その生地でもって生まれたワークウェアは、地元サウス・シールズの多くのワーカーたちに愛されていった。

5代も続く家族経営で今なおサウス・シールズに本社を構えるBARBOUR社だが、ここまで世界中に愛されるブランドにまで成長したのは、創業者であるJ.バブアー氏の息子にあたる、マルコム・バブアー氏の功績が大きな要因の1つだろう。

彼は、1908年に通信販売カタログを作成し、イギリス全土や、世界中に広告することで地元サウス・シールズのみならず、沢山の人々に愛されるようになり、当時は通信販売で売上の7割以上を占めていたそう。

そしてワークウェアとして愛され、多くの顧客を獲得したBARBOURは1936年にM.バブアー氏の息子にあたるダンカン・バブアー氏が、モーターサイクル(バイク)に造詣が深かったことから、ライダー向けのスーツを発表したのだが、これが瞬く間に評判となり、イギリスのインターナショナルチームが約40年に渡って愛用し続けたのだった。

しかしそれを発表した2年後、D.バブアー氏は第二次世界大戦に招集。

だが、彼らの開発したオイルドコットンクロスを使用したウェアは、その強固さや利便性からイギリス軍の潜水艦部隊の標準装備として採用され、元来、ワーカーたちを雨風から守るために生まれたものが、今度は人の命を守るためのウェアとして国から認められたのだ。

そこから時は経ち、1974年にエディンバラ公爵殿下から最初の英国皇室御用達の証であるロイヤルワラントを授かり、その地位を確固たるものにした。

その6年後、ワーカーやライダーたちのみならず、ハンティングやフィッシング、乗馬などがスポーツとして流行していった1970~80年後半の真っ只中、乗馬用ウェアとして“BEDALE”(ビデイル)を発表。

“BEDALE”
Price : ¥67,100- in tax
Color : SAGE
Size : 38 , 40 , 42 , 44

乗馬時に手袋をしながらでも、開閉がしやすいように大きく作られ、馬に跨った際に裾が邪魔をしないようにダブルジップの仕様。

さらに裾が大きく開くようにサイドベントを開閉できるように。

フロントポケットは4つ。
上部は手を温めるためのハンドウォーマー付きのポケット。

下部は荷物や道具が入るように大きなマチを備え、雨天時にポケットに水が溜まらないようにベンチレーション(穴)が備え付けられている。

首元はチンストラップのついた、コーデュロイ生地の襟を立たせて着用することでストールを必要としないディテールに。

ワーカーやライダーたちはもちろん、戦時中に人の命をも守ってきた実績を持つBARBOURだからこそ、着る人間に何が必要で、何が不必要なのかを1つのジャケットで表現しているように思う。

このBEDALEは後に名作と謳われ、今なお不動の人気を誇りBARBOURを代表するモデルのひとつとなり、発表から2年後にエリザベス女王から2つ目となるロイヤルワラントを授与されることとなる。

1994年、BARBOURは創業100周年を迎え、イギリスのみならず、世界中にその名を馳せるにまで成長し、ブランドとして完成されたものへとなった。

そして2000年、人々のライフスタイルは創業当初から大きく変化し、馬車に乗って移動していた人々はいつしか自動車や自転車へ。

そこで新たなライフスタイルへの提案として発表したのが“TRANSPORT”(トランスポート)だ。

Color : SAGE

Color : BLACK
Price : ¥59,400- in tax
Size : 38 , 40 , 42 , 44

“運送”を持つTRANSPORTは、自転車に乗る人々向けに生まれたウェアであり、BEDALEなどに比べると車輪が裾を巻き込まないように短めの丈になっている。

走行中の前傾姿勢を考慮し、ポケットはアクセスしやすくするために斜めに。

BEDALE同様、ハンドウォーマー付きも嬉しいポイントだ。

チンストラップなどのディテールはBEDALE同様。

クラシックなBARBOURを、現代のライフスタイルに合わせたタウンユースへ昇華している。

BARBOURは、あくまでギアとして長きに渡って多くの人々に愛されてきたが故の確固たる地位と、ブランドとして、アイテムとして確立してきたものだと思う。

それを着る人間が、如何にパフォーマンスを発揮できるのか。

そのためにウェアとして何が必要で、何が不必要なのか。

約130年の歴史の中でそれらを突き詰めてきた結果の”用の美”であるはずだ。

ひとつの用途のために磨かれ続け、必要を身につけ、一切の不必要を削ぎ落とした無駄のないフォルムやディテールは、その意味や理由を知らずとも何故か人を惹きつけ魅了する。

「着る人間を生かす洋服」

私はBARBOURをそう思う。

Arch STELLAR PLACE 佐藤